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2017/05/16 13:36

こちらでは屋台系の飲食店等でヌードルやお粥を注文すると、どこもたいてい同じデザインの器に入って出てきます。直径20センチほどのやや小さく肉厚の碗で、白またはベージュの地に鶏の絵が描かれたカラフルな器「チキンボウル」です。タイの人々には"Koey OUA"と呼ばれ、使われているシチュエイションからも分かるように、ごく一般的で安価な庶民の器です。長年の使用により、貫入(ひび)にスープやスパイスの色素が入り込んで強調されたり、縁が欠けたりしているのもまた味があります。
このチキンボウル、観光客向けの土産物屋はもちろんですが、市内の雑貨屋や地元のスーパーマーケットでもよく売られており、探せば5個で100バーツなどもざらにあります。チェンマイから南に車で2時間ほど行ったところの街ランパーンがその生産地です。

 

ランパーンという街は、チェンマイほど多くの観光客が訪れる場所でもないためか、昔の北タイ様式の建物や街並も観光地化を免れる形で多くが残るとても落ち着いた風情の街です。ここは良質の陶土(ホワイトセラミック/カオリナイト鉱)の産地でもあり、陶器の生産が盛んな場所です。
現在の鶏碗(チキンボウル)が作られるようになった経緯としては様々謂れはあるようですが、60年代にこの地に移り住んだ中国人たちによって始められたというのは間違いないようです。

ランパーンには数多くの陶器会社がありますが、その中でも最大手と言われるINDRA OUTLET(インドラアウトレット)社Webサイトによると、チキンボウルは1930年代に中国広東省で生まれたとされています。当時は薪を燃料としたドラゴンキリンと呼ばれる登り窯(龍窯)による伝統的な技法で焼かれ、絵師による熟練を要する技で絵付けが行われていたとのこと。その後多くの中国人移民たちによってタイに伝わり、こちらでは1957年にランパーンのRuam Samukkeeに初めてのセラミック工房が作られた。そしてこれが最初のチキンボウルメーカーであると記載されています。
その後ガス窯による技術革新と、短い時間で手早く描ける絵付職人の存在、そして生産コストを減らすための図案パターンの簡略化などにより、チキンボウルをはじめとした陶器の生産はランパーンの製造業の中心として発展したということです。これが所謂「正史」です。

また別のストーリーを主張するところもあります。ランパーンに数ある中堅陶器工房のひとつDHANABADEE(ダナバディ)は、デザイン性の高い極めて優れたモダンセラミックを作っています。そしてここは自らがチキンボウル製造のオリジナルであると主張しており、工房の敷地内には「ランパーンセラミックミュージアム」という博物館を建て、一般に公開しています。先日ここを見学した際に説明についてくれたのがこの工房の創業者の娘さんでした。
彼女の説明によると、ダナバディ社の創業者Mr.EChin Simyu)は1950年代半ばに、この地で初めてカオリナイト鉱床を発見し、のちにランパーン県で最初のセラミック工場を設立(これがインドラ社の言うRuam Samukkee工房かどうかは不明)。65年には現在の会社の元となった登り窯を初めて開き、ここでチキンボウルを作り始めたとのことです。(つづく)