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2017/08/14 19:53

タイは多くの山岳民族を筆頭にさまざまな民族と文化が溶け合う国です。それを受容する人々の寛容さと奥深く多彩な文化は、多くの人々を惹きつけて止みません。殊に古都チェンマイはそうした気運が強く感じられる場所です。eavamのパッケージもこの多様な文化が結び合う気風があればこそ、実現できたと言えます。

タイには、多彩さと受容性という文化的な懐の深さに加え、もう一つ魅力があります。それはダイナミックな気候のおかげで、動植物の恵みがとても豊かなことです。産業としての農業はもちろんのこと、庭に果樹やハーブを植え自ら育て、その恩恵を楽しむことはタイの人々にとって日常の一部です。それは欠かせない生活の楽しみでもあり、知恵や創造の源泉となっています。美しい織物や工芸も、文化の異なる他者や小さな生命(植物や動物たち)を深く慈しむ感覚も、このような生活の賜物だと言えるでしょう。



<育てるから始める>

私たちが原料として日々使っているトルコのオリーブオイルも、モロッコのアルガンオイルも、そしてチェンマイのラムヤイの花と蜜蜂たちの作るミツロウも、いずれも土から生まれた植物・生命から得たものです。つまりeavamの製品は、その原点のひとつに、明らかに自然や農的な要素を持っているということです。

製品に使う原料を通し、その流れの存在を知っている私たちではありますが、ものが作られる根源をより深く辿ってみるため、さらにもう一歩その始まりに踏み込むべく、自らの手で植物を育て始めました。自然を身近に感じ、その恩恵を自ら手にするまでのプロセスも引き受ける場を持ちたいと考えたからです。

そこで5年ほど前から、工房の敷地内に化学肥料や農薬は使用しないジャスミン畑をひらき、その香りを生かすバームを作る準備をしてきました。

まだ具体的に、どんなものを作るかははっきりしていませんでしたが、タイのシンボルのようでもあるジャスミンの花を生かした製品を作りたい、そのために農薬を使わないで育てた花が欲しいと、始めたジャスミン畑ですが、当初は、花を育てるのが大好きなタイのスタッフたちには、ただ咲くのが嬉しい日々の楽しみのようでもありました。


チェンマイでは街のいたるところに花市場がありますし、幹線道路の交差点では信号待ちの車を相手に、ジャスミンの花で作った小さなプアンマーライ(タイ語で花数珠、花飾り)を売る花売りが、車の窓を覗き込んでは行商しています。いかついトレーラーの運転手さんも、ピックアップトラックや通勤の乗用車も、乗り合いタクシーのソンテウやトゥクトゥクも、地元の人々はひとつ20バーツ(日本円で70円くらい)ほどのその小さな花飾りを買って車のバックミラーに引っ掛けます。

花売りの人々は、夏休みなどに親を助ける子供たちや貧しい山岳民族の人々も多く、そうした人々への花と引き換えの相互扶助、ドネーションにも感じますし、また20バーツで交換したそのジャスミンの花飾りは、爽やかな香りの一服の清涼剤として車内の空気を涼やかにしてくれます。


<ジャスミンの花とタイの生活>

工房のジャスミン畑も毎年たくさんの白いを咲かせてくれます。これらの花は季節になると早朝にスタッフたちが手摘みして、私たちが出勤するとデスクに飾り、オフィスを心地よい香りで満たしてくれます。

タイでは4月にソンクラーン、水掛祭としても知られる旧正月が盛大に行われますが、この時期はまさにジャスミンの花の季節。一年の大切な締めくくりとして、年長者への日頃の感謝の気持ちを伝えるささやかな儀式としてもジャスミンの花は使われます。一年の無病息災を願いつつ年長者への新年の挨拶を行う儀式の際に、両手に花の香りを移した冷たい水を振り掛けつつ、ジャスミンの花で作ったマライを掛けるさまはとても美しい光景です。

花はその国の人々の生活と季節の節目に結びつきます。花の美しさに輪をかけて人々に華やかさと甘美な想いを伴って愛される「特別な花」があります。日本であれば桜がそうかもしれません。そしてタイではジャスミンがその特別な花なのかもしれません。

私たちはこのジャスミンの花の香りを移して、新しいバームを作ろうと思いました。


5年ほど前に工房に開いた私たちのジャスミン畑ですが、eavamの立ち上げを機に畑を少しずつ広げてゆき、大干ばつに見舞われた一昨年からは厳しい乾季でも枯れることのないよう水遣りのシステム(畑に張り巡らせた給水パイプから、適度に水が滴るようにバーンさんが工夫したものです)を設置、実際に自ら育てた花を収穫して試作を重ねるなど、製品作りの具体的な作業へと進みました。

ジャスミンの花の香り成分はとても熱に弱く、蒸留しても精油は取り出せず、溶剤を使う方法は生花の香りとは異なる印象になってしまいます。

大切に育てたジャスミンです。より生花のジャスミンならではの、涼やかさや優しい香りを、できるだけそのまま取り出すために、私たちはアンフルラージュという方法を選択し、スタッフたちとその具体的な方法や技術を積み重ねました。


<アンフルラージュという香り移し>

アンフルラージュは花から香料を抽出する、最も古い方法のひとつです。ジャスミンなど熱に弱い花から香りを得るためによく用いられる方法でしたが、原料となる花が高価であることが多く、また全ての行程を手作業で行わなくてはないことは、大量生産を主流とする現在の香料の製法には合わず、今ではほとんど用いられない方法です。

しかし、適切規模で丁寧な手作業で、良質なものづくりを行うこと、生産者が明らかな原料を用いることをコンセプトとする私たちeavamには、むしろこれは最適な方法でした。


eavamのジャスミン畑は、バームを作る部屋のすぐ前にあります。チェンマイが最も暑い季節を迎える4月(それはジャスミンの花の盛りです)、バーム製造チームのスタッフたちの中でも、工房と同じ村に暮らすメンバーたちは、早朝に出勤して開きかけのジャスミンの花を一輪ずつ手摘みします。その後、萼や埃を取り除きながら、バームを薄く伸ばしたトレイの上に花を分厚く乗せ、専用の密閉箱の中でバームに花の香りが移すため次の朝まで保管します。これを数日間繰り返し、香りを移したバームを精製、eavamの白い小さな器へ流し込んで完成します。

香りを移した後の花は、敷地内のコンポストに移され、堆肥となってまたジャスミンの畑へと戻されます。来年また美しい花を咲かせてくれることでしょう。


こうして私たちは今年の秋、いよいよジャスミンの花の香りを丁寧に移したバーム、ジャスミンオリーブバーム「nongharn 03」をお届けできるところまで来ました。これはジャスミンの花を使った最初の製品です。まだまだ沢山の数を作ることはできませんので、まずは来月(9月)、数量限定で少しだけオンラインストアでもご紹介いたします。